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ファクトリーサイエンティストな人 第11回:FS協会 理事 植原啓介

2024年01月17日

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「ファクトリーサイエンティストな人」は、ファクトリーサイエンティスト協会(以下FS協会)の創設メンバーや理事・講師・TAをはじめとするFS協会に関わる人々を紹介するコーナーです。「ファクトリーサイエンティスト」って何?どんな人が関わっているの?という疑問や、それぞれのメンバーが「ファクトリーサイエンティスト」に込めた想いをお伝えしていきます。

第11回はFS協会理事で、慶應義塾大学環境情報学部教授の植原先生に、ファクトリーサイエンティスト協会に関わるようになったきっかけや問題意識、今後のファクトリーサイエンティスト協会の展開について思うことなどを事務局の三ツ石が伺いました。

(三ツ石)植原先生はこれまでどのような研究をされてきたのですか?

(植原)
主にインターネット移動体通信技術と言われるもので、移動しているものをどうインターネットにつなげて活用していくかという研究をしています。

1995年あたりから自動車に機材を積んで移動しながら通信する技術を実験研究してきました。始めた当初、現在のラップトップコンピュータのようなものは存在しなかったので、自動車にラックマウント型のコンピュータを搭載し、更に自動車に追加のオルタネータを積んで実験をしていました。

研究を続ける内に自動車会社とも交流が増えてきて、GNSS(※)やコネクテッド・カーといったことも研究分野に加わっています。
※Global Navigation Satellite System: 衛星測位システム

(三ツ石)大変興味深いですが、どこからファクトリーサイエンティスト(以下:FS)とつながってくるのでしょうか。

(植原)
私の元々の専門は通信技術ですが、自動車を使って実験をしていたので、自動車に搭載されているセンサー等を使ったIoT、そしてデータ分析なども行っていました。これらの技術は、センサー等をものづくりの現場で使うFSと一緒なんです。

ある時、横浜市から中小ものづくり企業を対象に座学と実習を組み合わせた講座をやってほしいと頼まれまして。その内容について田中浩也先生(現・FS協会理事)に相談したところ、ゲスト講師として竹村真郷さん(現・FS協会専務理事)を紹介されました。それがFS協会立上げ前夜ということになります。

田中先生から私の名前が挙がったのかなと思いますが、実際には竹村さんからFS協会理事として参画を誘われました。

三ツ石:誘われて、なぜ一緒にやろうと思われたのですか。

(植原)
「日本の町工場、製造業の現場を何とか日本に残したい」という願望ですね。当時Industory4.0とか世界で言われるようになっているのに、日本の現場のDXはだいぶ遅れを取ってしまっているという印象を受けていました。そしてコストではアジアなどの海外勢に負けていく。意識が硬直化している事業者や人はともかく、変化に前向きな企業・人は生き残れるように応援がしたいと思いました。

(三ツ石)そういう当時の思いに今のFS協会は応えられていますか。

(植原)
おかげさまで多くの企業・人の共感・協力を得て、ここまで順調にファクトリーサイエンティスト育成講座の回数を重ねてくることが出来ました。一方で心配なのは講座が「硬直化」しないことです。今のFS育成講座をベーシックとした場合の上級編、アドバンスト講座の開発も必要ですね。

(三ツ石)はい、FS協会の講座チームも日々講座に改良を加えたり、新しい講座の開発検討を進めたりしていますので、柔軟に変化していきたいですね。一方で、FSの普及はまだまだというところもありますよね。

(植原)
工業高校や高専の学生がFS育成講座を受講して、そのノウハウを踏まえてどんどんものづくりのアイデアを出していけば良いと思います。学校のカリキュラムを変えるのは難しいので、ファクトリーサイエンティストの意義を理解してくれる先生・学生らを中心に部活動・課外活動的に。

FSの学生への浸透をさらに加速するために、FS協会の会員企業・団体にも協力を呼びかけて、FS有資格者の求人コーナーを出してみると良いと思います。求人と人材育成、これが車の両輪でファクトリーサイエンティストの普及が進むのではないでしょうか。

FS協会のメンバーがものづくりの現場を知っている。そこに道があると思います。これから更にシステムも現場も変わっていく中で、今カリキュラムで使っているクラウドや機材についても不断に見直していく必要が不可欠です。

(三ツ石)それでは、これまでやってきたことの蓄積はどう活かしていきたいですか。

(植原)設立当初にあった「FSの本を出そう」という構想を具体的に動かしたいですね。1つは事例集、もう1つは教科書です。

内容はシステムのバージョンアップ等に合わせて見直していかなければいけないので、教科書はオンデマンド出版で良いのではないでしょうか。本と教材キットを販売し、オンデマンドで動画解説を視聴する、アセスメントテストを実施するといった組み合わせで、FSの世界に触れる人をもっと増やせると面白いと思います。

(三ツ石)高校生や高専の学生などが若いうちから自分でスモールIoTに作り手として接する機会が増えたりすれば、製造業だけでなく、日々の生活が自然に変わっていく気がしますね。

(植原)
製造業に限らず、デジタルの力で現場の課題を解決していかなければならないと思うことが増えています。例えば、私が関わっている地域でのフィールドワークでも、地域のハンターが減少する中で、農業への獣害の拡大が課題になっていることがわかっています。

人里や田畑・果樹園に罠をしかけようとしても、箱罠をあちこちに仕掛けるには箱罠は高い。箱罠自体は地元の工業高校の生徒に溶接の実習の題材として作ってもらえるように頼みました。でも今度は罠を仕掛けてもその地域で暮らす人が少ないと毎日罠を見回れない。センサーを箱罠に取り付けて、動物が罠にかかったときには駆けつけられるようにしたい。

大手企業で協力してくださる場合にはどうしてもフルスペックのシステムと機材になってしまう。身近な現場の課題解決にはもっと簡単なものでいいんです。その前提で現場の人がレゴブロックのように色んな用途に合わせて組み立てて使っていく。使える人を現場に増やす。そういう社会になると良いなと思っています。

取材担当三ツ石の一言

植原先生のお話を伺っていて印象的だったのは、日本の製造業の現状への危機感でした。意欲ある前向きな企業・人を応援したい、そのためには技術も教育も現場で使えるものにしたい。静かなお話ぶりの中に熱意が感じられるインタビューでした。