ファクトリーサイエンティストな人 第3回:FS協会 理事 田中浩也
2023年02月20日
- お知らせ
「ファクトリーサイエンティストな人」は、ファクトリーサイエンティスト協会(以下FS協会)の創設メンバーや理事・講師・TAをはじめとするFS協会に関わる人々を紹介するコーナーです。「ファクトリーサイエンティスト」って何?どんな人が関わっているの?という疑問や、それぞれのメンバーが「ファクトリーサイエンティスト」に込めた想いをお伝えしていきます。
第3回は「ファクトリーサイエンティスト」という言葉の生みの親でもある、ファクトリーサイエンティスト協会理事で、慶應義塾大学 環境情報学部 教授 田中浩也先生のインタビューです。
(広報:西野)まずは、田中先生が作られた「ファクトリーサイエンティスト」という言葉の生まれたきっかけを教えていただけますか?
(田中)
2017年ごろ、慶應義塾大学SFCでは、「データサイエンティスト」という新しい職能の提案がいち早く始まっていました。ある時、由紀ホールディングスの大坪社長(当会代表理事)と話をしている中で、「工場も『見える化』する必要があるよね」という話になったのです。「データサイエンティスト」と「工場」。 その掛け合わせとなる言葉、「ファクトリーサイエンティスト」が生まれた瞬間です。要は掛け算ですよね。カレーうどんやたらこスパゲティもそうですよね 笑
(西野)田中先生の研究について教えてください
(田中)
私は2005年に慶應義塾大学で田中浩也研究室を設立しました。「何か新しいことをやろう」と思っていろいろ探している中、出会ったのが3Dプリンターでした。「これは面白い」とすぐに海外から輸入で購入したのが2007年。おそらく、私が自宅で3Dプリンタを購入した最初の日本人ではないかと思っています。その後、2010年にMITに留学し、MITの授業でFab Academy(ファブラボ・アカデミー)に出会いました。日本にファブラボを持ってくる。FabLab Japan*設立となったきかっけです。
*田中先生はFabLab Japanの創設者
FabLabは日本に広がっていき、「ものづくりの民主化」を推し進めたのですが、私が問題意識を持ったのは、使用していた3Dプリンタをはじめとするデジタル工作機械がほぼ海外製のみで、国産のものがほとんどないということでした。
そこで過去10年以上、国産の大型3Dプリンタに関する研究開発を続けてきました。装置をつくるだけでなく、材料や、3Dプリンタ特有の設計技法を磨く研究を進めてきたのです。
その成果で一番広く知られたものは、東京2020 オリンピック・パラリンピックの表彰台を、史上初のリサイクルプラスチック3Dプリントで作ったことだと思います。
現在は、東京五輪をきっかけに生まれた“市民からリサイクルプラスチック製品を集め、大型3Dプリンタを用いて別のものにアップサイクルする”というスキームを、今度は輸送距離をなるべく縮め、地域の中で実証したいと考えています。
はじまったばかりの「デジタル駆動超資源循環参加型社会共創拠点」プロジェクトは、慶應義塾大学が代表機関となり、幹事自治体として鎌倉市(神奈川県)、参画企業24社(幹事企業:カヤック)、その他参画大学の共創により応募提案した研究プロポーザルが、科学技術振興機構(以下、JST)による「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」の地域共創分野(育成型)として採択され、2021年末から開始された産学官民連携プロジェクトです。
まずは鎌倉で循環サーキュラーエコノミーをはじめ、仕組みづくりをして、全国の町に展開していきたいと思っています。
(西野)資源循環系全体にかかわる研究とファクトリーサイエンティストには関係性があるのでしょうか?
(田中)
FSでも、機械のセンサーからデータを取りますよね。鎌倉市の取り組みでも、多数のセンサを利用する場面が出てくるのです。
今は、町のリサイクルボックスにセンサーを取り付ける取り組みをしています。
町の中のゴミや資源を回収したり回収頻度を見たり、工場全体を見るのと同じで、町全体を見ています。
「ファクトリー・サイエンティスト」で、工場をデジタルで見える化した先には、町全体の資源の流れや再利用のプロセスを見える化することが必要となり、「サーキュラータウン・サイエンティスト」的な人が求められるはずです。
この形が現れるのは、おそらく7年後の2030年前後になると思っています。
(西野)FS協会の10年後の姿をどのように考えていますか?
(田中)
「ファクトリー」が地域と連携して新しいまちの姿をつくりあげるエンジンになっていて欲しいです。そのきっかけは、静脈産業にかかわる方々がこの講座を受けることではないかと思っています。
ファクトリーサイエンティスト協会の第1回講座を開催(2019年に慶応SFCでリアル開催)した時に、リサイクル工場に勤務する人が受講されていました。循環型社会と言われている今考えれば、循環型社会では、ごみ収集業者、分別業者、解体業者、リサイクル業者など静脈産業と言われています。こうした人たちにこそこれからDXが必要ではないかと思うのです。今、電子マニフェスト法への対応も求められていますから、こうした人たちがDXを推進するようになる必要があります。
また、ファクトリーサイエンティストの演習と講座の原型となった、世界のファブラボで行われている「Fab Academy」は、毎年の卒業式が積み重なり、卒業生がまた新しいラボを立ち上げるという循環が、開始から10年を過ぎたくらいから生まれてきました。
ファクトリーサイエンティストも10年やって、「一回り」だと思うので、ここで学んだ人々がどういう活動を立ち上げるのかが興味深いです。
(西野)10年単位でものごとをみているのでしょうか?長いですね
(田中)
大学の研究者は、企業より長い射程でものを見るのが普通です。10年くらいのスパンで未来を考えていないと、大学にいることの役割を果たせないと思っているのです。あと、教育に携わっていると10年なんてあっと言う間なんです。高校生のときから知っている人が、いつの間にか、大学を卒業して、日本で大活躍中の起業家になっている。そういう、人間が成長していく過程を10年ととらえれば、いまから10年後の未来に向けて人材育成をする必要があるんですよね。
(西野)大きな可能性を秘めるFabLab(ファブラボ)とファクトリーサイエンティストの関係についてお聞かせください。
(田中)ファクトリーサイエンティストは、ファブラボとの連携が大事だと思っています。
ファブラボは元々、ものづくり/学びのコミュニティという文化を持っています。
ものづくりがわかる人がDIY的にやっています。ファブラボは、ハンズオン支援というか、「何か作るためならみんなで協力し合うアイデアを出し合い、参加しながらいい物を作る」といういいコミュニティを持っています。
ただ、日本のファブラボは趣味のものづくりにとどまっているところもある。海外のファブラボは、より社会課題に向き合った取り組みをしています。日本のファブラボも、趣味のモノづくりだけではなく、もっと社会課題に向き合うべきだと思うのです。そこで、ファブラボの人たちのスキルを、日本で課題を抱えている人たちにマッチングさせていく必要があると思っていました。
工場にはデジタル化や見える化など課題が山ほどあって、そのための人材育成の問題が見えています。ファブラボの人たちが持っているスキルと、工場の人たちが解決したい課題はうまくマッチングしています。これらが繋がってほんとうによかったと思っています。これが、ファクトリーサイエンティストをはじめて、僕が一番よかったと思っていることでもあるんです。
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取材担当の西野の一言
田中理事に初めてお会いしたのは2019年、慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)でした。第1回のファクトリーサイエンティスト育成講座が合宿形式(対面)で行われており、その最終発表会を聴講しました。その4年後、同大学の飛び地的な研究施設・慶応鎌倉ラボを取材で訪問することになるとは、思いもよらないことでした。
取材の中で、田中理事からお話を聞いた「サーキュラータウン・サイエンティスト」。
そのハードの一部となるプロトタイプがここにあるのです。ファクトリーサイエンティストは、いずれ、「工場をデジタルで見える化し、その先で、地域全体の資源の流れや再利用のプロセスを見える化」へと活動の場を広げていくのです。ラボから鎌倉駅へと戻る途中、ワクワクが止まりませんでした!