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ファクトリーサイエンティストな人 第5回:FS協会 講師・TA 濱中 直樹

2023年04月24日

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「ファクトリーサイエンティストな人」は、ファクトリーサイエンティスト協会(以下FS協会)の創設メンバーや理事・講師・TAをはじめとするFS協会に関わる人々を紹介するコーナーです。「ファクトリーサイエンティスト」って何?どんな人が関わっているの?という疑問や、それぞれのメンバーが「ファクトリーサイエンティスト」に込めた想いをお伝えしていきます。

第5回は、FS育成講座で講師・TA(Teaching Assistant)を担当している濱中さんに、講師・TAになられたきっかけや、FS育成講座について思うこと、これからのFS協会について事務局の三ツ石がインタビューしました。

(三ツ石)FS協会の講師・TAになられたきっかけは何ですか?

(濱中)
FS協会専務理事の竹村さんとは、FUJIMOCK FESという、富士山麓の間伐体験から木材をデジタル加工してプロダクトを製作するイベントで知り合いました。その後、竹村さんから声をかけて頂いて、2018年慶應義塾大学SFC研究所(以下SFC)で開催されたパイロット版のFS育成講座に参加したのがきっかけです。

メディアアートへの関わりやファブラボを運営してきた経験から電子工作やプログラミングにはある程度なじみがありましたが、集めたデータを可視化していくBIツールへの取り組みは初めてで、とても刺激を受けました。よく練られた講座の構成に感心したほか、その意義にとても共感し、最終発表のプレゼン後、現代表理事の大坪さんにぜひお手伝いさせて欲しいとお話したことをよく覚えています。

2019年にSFCで開催された合宿講座への参加はかないませんでしたが、2020年にオンラインで講習をスタートする際にお声がけいただき、そのままTAとして籍をおいています。

(三ツ石)濱中さんはFS協会以外ではどのような活動をされていますか?

(濱中)
普段は合同会社ハマナカデザインスタジオで建築、インテリア・照明のプラン・コーディネイトなどの仕事をしているほか、ファウンダーとしてファブラボ品川を運営しています。ファブラボ品川は世界でも類をみない「作業療法士のいるファブラボ」として、さまざまなユーザーが必要とする3Dプリンタを活用した暮らしの道具(自助具)をつくる取り組み を広めようとしています。

ワークショップや「メイカソン」と呼ぶプロトタイピング・イベントを通して、デザイナーと呼ばれる職能を持つ人々だけでなく、誰もが自分に必要なものをその場で必要な数だけつくることができるよう、「ともにつくる」社会の実現を目指して活動しています。

ファブラボ品川の外観(写真提供:ファブラボ品川)
ファブラボ品川の内観(写真提供:ファブラボ品川)
クライアントのニーズに合わせて製作した暮らしの道具(自助具)。ファブラボ品川の壁一面に飾られている(写真提供:ファブラボ品川)

(三ツ石)講師・TAにはファブラボを運営されている方が多いですね。濱中さんにとってファブラボの活動とはどういったものでしょうか?

(濱中)
ファブラボとは「自分たちの使うものを、使う人自身がつくる文化」を醸成することを目指したオープンな市民工房のネットワーク です。私は運営に当たり、ファブラボに来られた方と「ジャムる(※1)」ことを意識しています。

おばあちゃんがお孫さんをつれて初めてファブラボにいらっしゃいました。「さて、何をしようか」というところから即興でそのお孫さんの持ち味ややりたいことを引き出していくわけです。

※1 ミュージシャンたちが即興的に演奏するという俗語

(三ツ石)「作業療法士のいるファブラボ」を立ち上げようと思われたのはなぜですか。

(濱中)
作業療法士はクライアントのこれまでの生活や現在の暮らし全体を観察しながら、心身ともに充実した毎日となるよう (〈作業〉がかなえられるよう) 環境や活動を整えるお手伝いをする役割を担っています。ものづくりという行為、そしてものができあがる、関わる人が充実する。〈作業〉としてのものづくりを通して もっと多くの人々をエンパワーする。その仕組みをデザインすることが私の役割なのかなと。

そうした活動の一環として、最近では株式会社良品計画と協業し、2022年11月にオープンした「無印良品 板橋南町22」で、無印良品の既存製品にファブラボ品川 と同社がデザインした「拡張パーツ」を 店内の工房で3Dプリントして提供するサービスを開始しました。

無印良品の商品の良さはシンプルさですが、それが丁度よい具合のからまりしろ(※2)を内包しており、それらに「拡張パーツ」をつければこれまでそのプロダクトを使えなかった人々にもお使いいただけるようになり、ユーザー層を拡大することにもつながります。そこに協業先とにじり寄っていこうとしています。

※2「絡まる」と「しろ」から成る造語。からまる余地(しろ)のある状態を示す

「無印良品 板橋南町22」の3Dプリンタ工房(写真提供:ファブラボ品川)
「無印良品 板橋南町22」で販売している3Dプリンタで製作した缶ボトルのオープナー
(写真提供:ファブラボ品川)

(三ツ石)ファクトリーサイエンティスト育成講座にも通じますね。

(濱中)
ものづくりを通じて、「人はこんなにも変わるのか」と驚かされることがあります。困っていることにすら気づいていない人が、講座を通じて自分の困りごととポテンシャルに気づき、「新しい扉を開く」瞬間に立ち会えたときは講師・TA冥利に尽きますね。終了後もそうした学びを続けていただきたい。業績や新規事業にもつながればいいと思います

(三ツ石)FS協会としての今後の活動にはどんなことを期待されますか。

(濱中)
ファクトリーサイエンティストたちによるスモールIoTの取り組みが当たり前になり、協会が必要なくなるくらいになっているのが理想かもしれません。いずれにせよ、それまでに培ったネットワークで次のテーマに向けて、世界の製造業を面白くする存在になっていたいです。これをやりたい、こうしたいという思いを持って実現していけるファクトリーサイエンティストがフラットにつながり、日本に限らずアジア、世界に拡がっていく。そうなるといいですね。

(三ツ石)ファブラボ品川では今後のどのような活動を予定されていますか 。

(濱中)
ファブラボ品川では、2023年5月4日(木)~6日(土)にフランスの My Human Kit と共同でインクルーシブ・メイカソン「FABRIKARIUM TOKYO 2023 (ファブリカリウム東京 2023)」を日本科学未来館で開催します。
メイカソンは「メイク(make)」と「マラソン(marathon)」を掛け合わせた造語で,短期間にものづくりをするイベントです。

私たちのメイカソンは、障害をもつ人やその支援者をチームメンバーに迎えて、5チーム50名くらいで3Dプリンタなどのデジタル工作機械も活用し、本当に必要とされる道具作りに挑みます。デジタル工作機械を使うことでデータが使える道具になり、道具のかたちはデータとして保存し、伝え共有することができます。

最終日となる5月6日(土)午後の成果発表会イベントは観覧申し込みを受付中です。〈入場無料(投げ銭あり)・同時通訳付・要事前申し込み〉多くの方々にこの活動を知っていただきたくご参加をお待ちしております。

FABRIKARIUM TOKYO 2023 (ファブリカリウム東京 2023) イベントは終了しました。
https://fabrikarium-tokyo.org/

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取材担当の一言

取材担当の一言
東京の下町のファブラボで、おばあちゃんとお孫さんが何を作ってみたいか対話する一方で、日本企業、ときにはフランスの人々とも協業しながら世界のものづくりのあり方をデザインしている。そのレンジの広さ、そして、ものづくりと 〈作業〉の力で「人々をエンパワーメントしたい!」という情熱に圧倒されたインタビューでした。
これからファクトリーサイエンティスト育成講座を受ける方には、濱中さんとのジャムセッションを楽しみにしていただければ幸いです。