ファクトリーサイエンティストな人 第6回:FS協会 専務理事 竹村真郷
2023年05月11日
- お知らせ
「ファクトリーサイエンティストな人」は、ファクトリーサイエンティスト協会(以下FS協会)の創設メンバーや理事・講師・TAをはじめとするFS協会に関わる人々を紹介するコーナーです。「ファクトリーサイエンティスト」って何?どんな人が関わっているの?という疑問や、それぞれのメンバーが「ファクトリーサイエンティスト」に込めた想いをお伝えしていきます。
第6回はFS協会専務理事で、FS育成講座の講師・TAチームをまとめる竹村さんのインタビューです。
(西野)ファクトリーサイエンティスト協会に参画されたきかっけ を教えてください。
(竹村)
私は2014年にファブラボ浜松を設立して活動を続けて来ました。これは、デジタルファブリケーションが普及していく未来に向けて、「ボトムアップ的な」アプローチで盛り上げて行こうという活動です。現理事の慶應義塾大学田中浩也教授や講師の方々とは、この活動を通してお会いすることが出来ました。
この活動の中で、さまざまな業種毎にファブラボがどのように関わっていけるかという議論が活発に行われました。その一つとして「中小製造業の現場の中で、ファブラボはどのような貢献ができるか」という議論があったのです。浜松は産業が盛んな町で、私も元々装置開発メーカーに勤めていたこともあり、興味を持ち積極的に参加させてもらったことがきっかけです。
(西野)ファブラボについてもうすこし詳しく聞かせてください。
(竹村)
ファブラボというのは、マサチューセッツ工科大学のニール・ガーシェンフェルド教授という方が始めた枠組みで、3Dプリンタ、レーザーカッター、CNCミリングマシンといったデータを入力することで物体を作る「装置」や、マイコンボード、センサなどを組み合わせて、ほぼなんでも作れる「ラボ」を世界中に作っていこうというものです。日本でも2010年頃からファブラボに関する議論が始まり現在に至るまで各地に20ヶ所を超えるファブラボが設立されてきました。
ファブラボがここ10年で増えてきた理由の一つにファブラボの汎用性があります。デジタルファブリケーションのツールとしての可能性を、さまざまな分野で活用しようとさまざまな文脈でファブラボの可能性が語られてきました。
例えばスタートアップ育成の場、技術の専門領域を超えたイノベーション創出の場、次世代人材育成の場、ものづくりを楽しむDIY普及の場、地域活性化の拠点…、様々な課題に対してデジタルファブリケーションが解決の糸口になるのではないかと語られてきました。
ただ、同時に、さまざまなコンテキストでファブラボが同時に語られることで、一般の人からはおもしろい場所だが、そこで自分は何をすれば良いのかという当事者意識を持つことができにくいという課題が出てきました。ファブラボ浜松でも、見学にきて下さった製造業の方々から、「ものづくりを楽しむことは大切だが、産業としての製造業とファブラボは関係ないね」というようなコメントをいただくことが多くありました。
僕としては廉価な3Dプリンタであっても製造業で活用される未来はあるはずだと信じていたため、どう説明したらよいか悩みました。そうした状況においても、各地で活動するファブラボの運営者、利用者の方々と話をする中で、製造業に限らず、さまざまな分野でデジタルファブリケーションがどのように活用できるか、具体的な制作事例、ストーリーを集めて共有していくことがその一つの解決策になるのではという解決策が見えてきました。
現講師・TA(Teaching Assistant)の濱中さんは、「福祉」や「リハビリテーション」の現場でデジタルファブリケーションの活用事例をまとめるFabOT(ファブ オーティー: [Fablication(つくること)と )」と [Occupational Terapy (作業療法)」を掛け合わせた造語」)という活動をしておられますが、これによって作業療法士のコミュニティでデジタルファブリケーションを活用する事例がたくさん生まれてきました。
ファクトリーサイエンティストも中小製造業という分野に絞り、製造業の現場でどのようにファブラボを活用できるか事例を集めて共有しようというのが最初のアイディアでした。
(西野)竹村さんの普段のお仕事、また現在関心をお持ちの分野について教えてください。
(竹村)
主に二つの仕事をしています。
一つは大学や企業向けにプロトタイプ開発を行っています。ドローンやロボット、自動実験機器、衛星関連機器など、デジタルファブリケーションを活用して素早くプロトタイプを受託制作しています。
もう一つは、ルワンダ、ブータン、インドネシアなどでファブラボの立ち上げ・運営支援をJICAの国際協力の一環事業として行っています。国の発展度合いにより受託制作に求められるものは変わってくるのですが、インドネシアだとより実用的なものを、ルワンダでは手作業に必要となる治具をカスタマイズできないかといったことに関心が高いです。例えば、鉄を切るにしても鋼を叩いて切るのか溶接をするのかは施設を持っているかで異なりますよね。自動車を例にすれば、インドネシアであればモーターを買ってきて作ることができるが、ルワンダではモーターそのものが手に入りづらいので壊れたバイクから手に入れたりします。インフラや物流などの発展度合いによりファブラボに求められる内容も変わってくるのです。
世界各地で、さまざまな分野・業種で、新規事業立ち上げの中や、研究の中でプロトタイプを作成することが一般化しと、それによってプロトタイピングできる人材の育成などが注目されてきています。
また、プロトタイピングには電子工作、デジタルファブリケーション、CAD、プログラミングなど、分野を横断した知識が必要になります。そのような人材をどのように育成・普及していくかに興味があります。
(西野)ファクトリーサイエンティスト協会の魅力 について聞かせてください
(竹村)
魅力はたくさんあるのですが、一つは、「理事の方々のバックグランドに多様性がある協会」だと思っています。アカデミア、産業、行政から参画しており、毎月開催される理事会でもさまざまな視点からコメントが飛び交います。今後どのような人材が必要か、現場ではどんな問題があるか、どんな新しいサービスが出てきているかなど、包括的な議論が行われていると感じています。
これまでの産業界の慣習にとらわれず、かつ「破壊的な」活動にならない提言をしているのではないかと思います。「破壊的」というのは、DXをはじめましょうというときに大手企業に既存システムを発注し作ってみて失敗するという意味で捉えています。
一人一人が学び、意識が高くなりずっと続けられる。自然な流れの中でDXなりIoTが入ってくる…そのような連続的な取り組みとすることが大事です。小さく素早くはじめて、周りを巻き込んでいくというファクトリーサイエンティストのアプローチは日本企業の慣習に合っているとも思っています。冒頭でも申し上げましたが、日本の企業文化はどちらかというとトップダウン型ですが、その中にボトムアップの要素をもっと入れられるといいですよね。
ちなみに、ボトムアップには2つあると思っています。
1つは、教育でいうボトムアップつまり、下の人たちを全体的に底上げしようというものです。
もう1つは、何かしようと動き始めるときに、現場の声が出てきて、それをトップの人がピックアップするといった取り組みです。僕はどちらの意味でもボトムアップという言葉だと捉え使っています。
(西野)FSA 育成講座をどのような方に勧めたいですか?
(竹村)
まず何か手を動かしてやってみたいがどこから始めたらいいか悩んでいるという方に、ぜひすぐにでもご参加いただきたいです。オンライン上にも多くの自作IoTデバイスの作りかたが公開されていますが、選択肢が多くありすぎて逆に悩んでしまうということがあるのではないでしょうか?
また、初めてみたけれども、少し作り始めたところで、自分の作りたいシステムの要件には合わないことがわかり、別のプラットフォームを再度学習し直さないといけなくなったということもよくあります。自分がどんなものを作りたいか、どうやって作るか、どこでうまくいかなかったかなど、さまざまな業種の受講生をサポートしてきた講師陣にご相談いただきながら進めることができますので、安心してご参加ください。
DXというキーワードを聞いたときに「うちの会社をよくするかもしれない」というアイデアを持っている人に講座を受講してもらうと実際にプロトタイプを作ってもらえますので、大きく一歩を踏み出せると思います。
(西野)FS 協会の 10 年後の姿をどのように考えていますか?
(竹村)
中小製造業を中心に、現場でのIT活用にあたっての共通言語にしていきたいと感じています。
自動車業界には、「カンバンシステム」や「トヨタ生産方式」という業界内の共通言語があるように、製造業と物流業の間で何か効率化をしたいと検討している時にファクトリーサイエンティストの「Power BIを使ったらどう?」という業種を超えたITの共通言語にしたいと思います。
講座の教材も、IT技術の発達に連れてもっと簡単にもっと便利なツールを作れるような構成に進化しています。
さらに、企業からの求人募集欄にも、「職種:ファクトリーサイエンティスト」という求人が出るくらい「ファクトリーサイエンティスト」が社会で一般的に使われるような存在にしていきたいです。
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取材担当西野の一言
2年前の春、国際展示場で当協会が初めて参画した展示会でご一緒したのが竹村さんでした。当時、人がまとまって集うことに主催者側も参加者側も慎重すぎるくらい配慮し、参加者が多すぎても少なすぎても困る…そんな中で開催された展示会でした。今回の記事でもお話のあったファブラボの海外での取り組みについて竹村さんからより伺ったのを思い出します。米国MITで誕生したファブラボが日本にも根付き、その取り組みがあったからこそ当協会が誕生したと思うと感慨深いです。