ファクトリーサイエンティストな人 第10回:FS協会 TA 花井駿
2023年12月07日
- お知らせ
「ファクトリーサイエンティストな人」は、ファクトリーサイエンティスト協会(以下FS協会)の創設メンバーや理事・講師・TAをはじめとするFS協会に関わる人々を紹介するコーナーです。「ファクトリーサイエンティスト」って何?どんな人が関わっているの?という疑問や、それぞれのメンバーが「ファクトリーサイエンティスト」に込めた想いをお伝えしていきます。
第10回はFS協会TA(Teaching Assistant)を担当している花井さんに、TAになったきっかけや、TAとしてFS育成講座について思うこと、これからのFS協会について広報の西野がインタビューしました。
(西野)まず花井さんご自身のことを教えてください。
(花井)
もともと学生時代はファッションのデザインを勉強してデザイナーを目指していたのですが、織物や繊維の産地を自分で訪れているうちに、ファッションデザインよりも、ものを“つくる”方に、自分の興味が少しずつ移っていくのを感じていました。
その結果、卒業後の進路はファッションやアパレルに関わる仕事ではなく、大阪で「まちづくり」に関する財団法人で働くことにしました。2013年当時のことで、震災の影響もあったんだと思います。
また社会人になってからは、大阪に拠点を持つファブラボ「北加賀屋」にも頻繁に出入りをしていました。その関係で、ファクトリーサイエンティスト協会の専務理事の竹村さんとはFABLAB浜松の運営者として、その頃一度お会いしていました。
実家は中小製造業を営んでいます。
4~5年程前に前職を退職して入社したのですが、社内でデジタル化がほんとに進んでいないことを実感しました。デジタル化に一つずつ取り組んでいく中で、FS講座の存在を知り受講したのが最初です。
入社前からなんとなく気づいていたのですが、FAXが行き交いするなど、アナログ業務部が大半を占める職場でした。現場の人たちのITリテラシーは必ずしも高いとはいえない。売上や利益を立てることももちろんですが、それ以上に「仕事をしていると疲れてしまう」自分自身もしんどくなってきていました。
そこで、純粋にデジタル化をしようと思ったのです。ちょうどこの時期に現場側もデジタル化を進めたいと思っていたところでした。世の中では、ビッグデータ、クラウドを活用しようという話は5年以上前よりありました。IoTといったキーワードも出ていました。ただ、何からやったらいいか分からないのが正直なところでした。
そのような状況の時に、ファクトリーサイエンティスト育成講座の募集を偶然インターネットで見つけました。最初に見たのはコロナ禍でオンライン講座がスタートした第1回目の講座(第3回FS育成講座)。ファクトリーサイエンティストの慶応SFCで開かれたリアルの合宿は以前に記事読んでいた気がしていたのですが、オンラインなら参加できそうだと思ったのです。
申し込みの際に、「オンラインでどのくらい時間を使うか」など協会にメールで質問をしたところ、その返信が【竹村さん】という方からだったので、「もしかしてあのFABLAB浜松の竹村さん?」とお声がけしたら、やはりあの竹村さんでまさかの再会にびっくりしました!世の中の縁のつながりはすごいと思ったのを今でも覚えています。
実際に講座の内容を試してみると、“自分で出来ること”、“ベンダーに頼むべきこと”、そして“自分でやるべきこと” も見えてきました。
(西野)ファクトリーサイエンティストのTAになったきかっけを教えてください。
(花井)
受講をきっかけに、FSの活動に更に興味を持つようになり、TAとしても携わらせていただくようになりました。
「もっとやりたい」「もっと面白いことがあるのに」という現実と理想の溝を埋めるためにファクトリーサイエンティストの場がフィットしたことも正直あります。社外の多種多様な人と出会い、話し合う場となっています。
もちろん、ファクトリーサイエンティストとして学んだことを会社で全てやれてはいません。ですが、自分が学びを業務に「ブレンドできる存在」であるとは思っています。
例えば、“生産の見える化”のためにセンサーを機械の全てに取り付けることを当初は目標にしていましたが、実際には、機械にセンサーをつけるという雰囲気は現場ではなかなか育たず、見える化については一部にとどまっています。
一方で、クラウドの活用やグループウェア全体にアカウントを付与するなど、“普通の”デジタル化が弊社にはフィットしました。 その程度かという想いも正直ありましたが、それでもIoTに取り組むプロセスで社内が少しずつ変化していくのはうれしいことですし、モチベーションにも繋がります。
(西野)普段のお仕事、FSAとの関係性やご関心をお持ちのことについてお聞かせください。
(花井)
社内では現在、経営企画担当として中期計画の立案や財務管理を担当しています。また、IT専任者がいないので、IT系全般を受け持っています。入社時には、現場を担当しつつバックオフィスで足りていないところも見てほしい、と代表である父から任されました。どちらかというとじっくり取り組む業務を担当しています。
ファクトリーサイエンティストという視点でいうと、最初は社内に自分以外のファクトリーサイエンティスト人材を輩出したいと思っていました。ですが、正直、現場に新たな取り組みを持ち込むのは難しかったのです。
そこで、自身はTA(Teaching Assistant)になることを社長と相談しまして、現在は個人(副業)としてFSのTA業務に取り組んでいます。
もともと経営者主導のデジタル化やデジタライゼーションには興味を持っていましたし、TAとしてもその方面からアドバイス出来たらなと思っています。現状では、会社とファクトリーサイエンティストに直接の関係性は強くありません。ですが、自分自身の立ち位置は、FS協会が当初から想定している「社長や工場の統括責任者の右腕になるような存在」というイメージ像であり、それをど真ん中で取り組んでいるように思います。
(西野)ファクトリーサイエンティスト協会の魅力は何でしょうか?
(花井)
まず名前がいいですよね。笑
協会自体が閉鎖的ではない雰囲気もとても好きです。
先進的でありつつも、中小製造業という切り口。さらに、IT界隈が繋がるコミュニティはあまりないように思うので、参加しているだけでわくわくする感じがあります。
実際に講座の受講者も多様なバックグラウンドを持った方々ばかり。社内では交わることのなかった人と出会ったり、物の見方に触発されたりするのは魅力的だと思います。
協会との関わりについていえば、社団法人や理事というと現場と分断されがちなイメージがありますよね。でも、現段階では、理事が(協会活動の現場を担う)我々TAのことを思ってくれていることがわかります。
TAと協会がどうやったら良くなるのか、お互いが話し合える関係性がある。お互いに相手を重んじる状態があり、それを維持できるといいと思います。
(西野)FS育成講座をどのような方に受講してほしいですか?
(花井)
「デジタルに手触りを」というキーワードにピンと来たり、いいなぁと思える人にはすごく合っていると思います。
最近のIoTデバイスは、買ってすぐ据え付けて、専用アプリで動く便利なものがどんどん出てきています。また、現行の講座では、ありものを使いつつも手を動かして仕組みを理解していくことが可能な構成になっています。
もちろん時代に併せて変化していくとは思いますが、ブラックボックス化し過ぎないことと、「これめっちゃ便利!!」というものを使うバランスには今後も拘っていきたいなと思います。
実際、FS育成講座を受けられた方も、事後アンケートの中で、プラスの意味で「こんなに簡単にできると思わなかった」という声がありました。他方、「コスパのいいやり方もあるのでは」という意見もあります。ゼロベースはハードル高すぎるし、完全に教育に振り切っても、サービスに寄りづらくなる。実務と教育のバランスを取り続けることが重要ではないかと思います。
(西野)FS協会の10年後の姿をどのように見ていますか?
(花井)
FS協会には、「2030年にファクトリーサイエンティストを4万人に」という目標があります。これを達成する。
その上で、企業間で「ファクトリーサイエンティスト」という名称が普通に使われていてほしいですね。
さらに、漠然としたファクトリーサイエンティストの姿としてですが、FS取得者がプロジェクト単位で働いたり、ギグワークのように働ける姿になっているといいなと密かに思っています。職種にもよりますが、製造業に従事していると「決まった時間に同じ場所で働く」という考えが擦り込まれていますよね。実際にはそうせざる得ない場合が多いのですが、「FS取得者はより柔軟な働き方の選択肢がある」という姿になれるといいと思います。
また、工場にIoTやシステム関係を導入する際、社内メンバー(とベンダー)だけではプロジェクトが中々進まないとします。そのような時に、FS取得者が知見を活かしてプロジェクトに参画できれば面白いですよね。
日本の製造業における人材不足は深刻です。柔軟に働けるというのは次世代の若者には魅力的に映るかもしれません。また、製造業で働きたいという人も、FS育成講座の受講を希望される方もこれまで以上に増えるかもしれません。
“従来のサプライチェーンとは違った、ネットワーク的に関係が構築される”ことが“データだけではなく人も”。
既存の雇用形態があり難しい面もあるとは思いますが、将来、ファクトリーサイエンティスト協会がそのような大きなエコシステムのハブになれたらいいなと思います。
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取材担当西野の一言
学生時代にはファッションに興味がありデザイナーを目指していたという花井さん。学びの中で生産地を巡るうちにものづくりに興味を持つようになり、その後「ファブラボ」の活動に関わっていたと伺い、協会との確かなご縁を感じました。
「FS有資格者は柔軟な働き方もできるようになれば」と製造現場の方々の新たな働き方を話してくださいました。遠くない未来にそのような社会が到来しているといいですね。