ファクトリーサイエンティストな人 第14回 :TA 林園子
2024年09月17日
- お知らせ
「ファクトリーサイエンティストな人」は、ファクトリーサイエンティスト協会(以下FS協会)の創設メンバーや理事・講師・TAをはじめとするFS協会に関わる人々を紹介するコーナーです。「ファクトリーサイエンティスト」って何?どんな人が関わっているの?という疑問や、それぞれのメンバーが「ファクトリーサイエンティスト」に込めた想いをお伝えしていきます。
第14回は、ファクトリーサイエンティスト協会(以下FS協会)のTAを務める林園子氏です。
(広報:西野)まず林さんご自身のことを教えてください。
(林)
私自身は、ファブラボ品川のディレクター、一般社団法人ICTリハビリテーション研究会の代表理事として3Dプリンタで障害者などの生活に役立つ道具である「自助具」を作成する研究をしています。私の活動は、現場の当事者が、自身の課題発見・課題解決を、デジタルの活用を通して行う文脈で、FSAの講座の取り組みと非常に共通性があると感じています。
元々は作業療法士として働いていました。子育てをしながら時間が作れるようになった段階で、もう少しデジタルを勉強してみたいと考えました。そうすることで、物の見方や自らの職域も広がるのではないかと思ったのです。
(西野)具体的に何の勉強を始められたのですか?
(林)
子供達が小学校高学年に上がった頃からインターネットアカデミーという学校に通い始めました。16年前ぐらいだったでしょうか。ウェブサイトを自分で作れたら面白いかもしれないと思い、約2年通いました。
プログラミングを学んで、ある程度自分でウェブサイトが作れるようになり、最初にネットショップを始めました。せっかく学んだので、作業療法士としての活動とつなげたら面白いと思い、インクルーシブな創造の場作りとして、プログラミングカフェを始めました。2015年ごろのことです。
プログラミングカフェでは、スクラッチを使いますので、子供も楽しんで作れます。障害があったとしても、デジタルツールを使うことで、創造的な活動に参加することができる。障害があってもなくても同じ視点で楽しめそうだと考えました。
月1回のペースで興味ある近隣の方々を対象に始め、こうした活動を2018年ごろまで続けていました。現在、この活動は他団体に引き継ぎましたが、当時よりデジタルを活用することで「やってみたらできる、簡単にできる」ツールもたくさんあること、「つくる」ことを通して人と人とが繋がれることを知りました。
いろいろな方がデジタルに触れる最初のきかっけになる場があればいいなと思い、近所にプログラミングカフェをつくったのですが、幸い自分の周りには関心もってくれる人がいました。今はそうした方がもっと、増えてきたと感じています。
(西野)最初に、林さんがFS協会の活動に参画されたきかっけを教えてください。
(林)
2018年に(FS協会理事でもある)田中浩也教授の元で大学院生をしていた時に開催された、パイロット版のFS育成講座に参加したのがきっかけです。全国3地域をリモートで繋いだハイブリッド講座でした。講師はFS協会 専務理事の竹村さんとサポートの方々講座を提供してくださいました。 基礎から学び、課題を自分で設計するという形は現在の講座とほぼ同じです。とても学びやすいものでした。
その後、現在FS協会の理事・事務局長をしている濱中さんと一緒にファブラボ品川の運営をしていました。数年間、濱中さんがTAとして楽しそうにセンサーを使っているのを横目に見ており、興味津々でした。2024年、大学院卒業をきっかけに、濱中さんに声をかけていただき、TA(Teaching Assistant)として参加することにしました。
(西野) パイロット版のFS育成講座に参加してからTAになられるまでしばらく時間がありましたね。
(林)
当時は大学院生だったので、博士に集中しようと決めていました。 今回、FS協会のTAに参画させていただいたのは、博士を取得・卒業し、ちょうどいいタイミングでした。
「やってみる」ということが大事だと思います。
自分自身も、いろんな可能性を探していく中、徐々にFS協会の取り組みやファブラボの取り組みの意義を感じていました。が、FS育成講座のパイロット版を受講した当時は、「自分たちで何かを作り、課題を自ら解決する」とことをなんとなく理解する程度でした。
3Dプリンタもそうです。3Dプリンタをリハビリテーションの分野で利用する研修会やワークショップを開いていましたが、自分で購入して作ってみるほどではなかった時期もありました。
「林さんも作ってみたらいいんじゃない?」と(3Dプリンタに詳しい)濱中さんに背中を押され、実際にやってみて3Dプリンタの面白さが深く理解できました。自分で手を動かしてみてやってみる。行為を通して面白さを知ることによって、もっと多くの人に伝えたいという思いに繋がりました。
FS協会の取り組みも同じだと思うんですよね。「やってみないとわからない」、というのはどんなことにも共通すると思います。
(西野)ICTリハビリテーション研究会の活動をもう少し詳しくお伺いできますか?
(林)
障害当事者も支援者も、デジタルをその恩恵の受け手としてだけではなく、WS等を通じて自分たちの創造性を活かす為に活用したいという想いで始めた会です。ICTを含めて、デジタル活用を当事者の人、家族の方、ケア現場にいる当事者の方がデジタルを使って日々のケアをより充実したものにしたい、より効率的にしたい。こうしたことが自分たちでできるようになればと考えています。
当初より参加されているのはリハビリの専門職の方、障害のある方、取り組みに興味のある方、デジタルで何かを作ることに興味がある方です。
現在、研究会の一般会員は330人。年会費1万円で正会員として参加すると、より深く学べる機会があります。会員価格でWSに参加でき、コミュニティもあります。
(西野)お話を伺っていると、林さんはコミュニティづくりが上手ですね。何か秘訣があるのでしょうか?
(林)
私自身は、特別に尖ったスキルがあるわけでないです。いろんな方々と一緒にやって行かないと、面白い活動は生まれないし、できないと思っています。ですので、いろんな方に協力を求めます。そのおかげでこれまで様々なご縁をいただいています。
正直、人付き合いが好きなわけではなく、むしろ人見知りです。コミュニティを作ろうと思って作ったわけでもない。ただ、この活動を通して作りたい価値の実現のため、価値を理解し応援してくれる仲間のおかげで続けることができています。
ICTリハビリテーション研究会も、ファブラボの取り組みも、自分たちで自らの環境をよりよくしていく活動ですが、デジタルを使うともっと面白くできる、自らのレジリエンスを上げながら、みんなと繋がるのは、すごくいい活動だと思っています。そのスキルの一環として、活動の一つとしてより多くの人に広げていきたいという思いでやってきました。そうした思いに共感してくださる方々とつながれていると思います。
もっと大きなものを作って売れば稼げるだろうに、というお話もありますが、小さな「モノ・コト」を積み上げて、仲間と共に大きな価値をつくり上げていく。これはこれで、一つの世界のあり方だと思います。
ファブラボの世界、FS協会の活動のよさが日本の中でもちゃんと認められるように、そうしたバックグラウンドを持つものとして、やっていけたらと思っています。なるべく、共感できる人と繋がり、続けていくことではないでしょうか。一歩一歩やるしかないと思います。
FS協会の取り組みは、ファブラボの取り組みと共鳴していて、同じ方向性のある活動だと思います。だからこそ多くのTAの方=ファブラボの方々が一緒にやっていらっしゃるのだと思います。
(西野)2024年よりTAとして参加してみていかがでしたか?
(林)
受講生には、いろいろな方々がいらっしゃいます。それぞれに専門性を持ちものづくりをしていらっしゃる方が多いので、逆に学ばせてもらうことも多いです。その中で、私なりのバックグランドのシェアをしていきたいと思います。
(西野)ファクトリーサイエンティストの魅力とは何でしょうか?
(林)
自助具などの障害者支援具を作成する場合、当事者に「何か課題や困りごとはありますか?」と聞いても、「特に困ってない」と返事があったり、困りごとの要件があまり明確になっていなかったりすることがほとんどです。
でも事例に触れてもらったり、とにかく何かを作ってみたりすると「実は解決したかったこと」が話題に上がったり、要件がどんどん明確になってきたりします。
例えば、こちらから高齢者施設等に出向き、お困りごとを聞いても、なかなか出てきません。そのため、その方々にとって響くような具体例をお見せできるようにしています。なるべく多くのサンプルや事例集などを持参するようにして、定期的に複数回対話の機会を持てると効果的です。
あらゆるところにニーズはあると思うのです。もう少し触れて考えるチャンス、そして時間も含めて「接点」をご提供できるといいなと思っています。
FS講座を受講される方々の現場でも似たような現象があるのではないでしょうか?「とにかくまずやってみる、手を動かしてみる」ことができるFS講座は、現場のまだ見ぬ課題発見と解決に必ずつながるとても有益な講座だと思います。
(西野)どのような方にファクトリーサイエンティストの講座を受講いただきたいでしょうか?
(林)
工場だけでなく、介護医療などの現場やご自宅でも役立つ内容なので、幅広く多くの方に受講してもらいたいです。もう少し女性の方を増やしていけたらいいなと思っています。暮らしの中でのプロジェクトにも活かせると思うので、興味のある女性の接点が広がっていくといいなと思います。
(西野)FS協会の10年後、ありたい姿についてお聞かせください。
(林)
どういう形か具体的にわからないですが、世界中に活動が広まっていくと良いですね。格差の拡大にブレーキがかかり、あらゆる人の創造力が発揮され活かされる社会、他社・他者への想像力豊かで思いやりのある社会の構築につながっていくことを願っています。
取材担当西野の一言
2023年5月、日本科学未来館で開催されたインクルーシブ・メイカソン「FABRIKARIUM TOKYO 2023」で、初めてICTリハビリテーション協会代表の林さんの活動に触れる機会がありました。そのとき、彼女が描く世界観を具現化したこのイベントに圧倒され、強く心を動かされた光景を今もはっきりと覚えています。
今回の取材では、林さんの「誰もが『つくることを通じて、人と人がつながれる』」という思いに、改めて共感いたしました。そして、そんな林さんがFS協会のTAとして参加くださったことを心強く感じています。